「Side Effects 2022-2024」フィールドワーク3:CoSTEP 池田貴子さん
日付:2022年
小咄:
北海道には、エキノコックス症という風土病があります。エキノコックス(Echinococcus multilocularis)という寄生虫が人間の肝臓などに寄生し、重い障害や死を招く感染症です。エキノコックスは普段はキツネとネズミのからだを主な住処としています。ただその野生動物から、まれにヒトの体内に入り込み、約10年間の潜伏期間を経て重い肝機能障害等を引き起こします。いまだにこの病気を治す治療法はないため、予防が必要です。野生動物が都市の近くに住む札幌で、このエキノコックスに対する予防策を検討しているのが、北海道大学CoSTEP特任講師の池田貴子さんです。
池田さんは、感染したキツネを駆除しても、根本的なエキノコックス対策にはならないと考えています。それはキツネの習性にあります。キツネはテリトリー意識が強い生き物です。キツネがある地域に住み着いている限り、他のキツネはその地域に入ってこられません。しかし、キツネを駆除してしまうと、その地域に別のキツネが入ってしまいます。もしそのキツネがエキノコックスに感染してたら...、対策は“いたちごっこ”になってしまいます。
むしろ、エキノコックスに感染していない「クリーンフォックス(感染していないキツネ)」が地域にいることによって、他のキツネの侵入を防いでくれる、と池田さんは考えています。池田さんは虫下しが入った餌(ベイト)をまき、キツネに食べてもらうことで、地域のキツネを「クリーンフォックス」にします。ただこの対策は、定期的にベイトを巻くといった対策が必要です。また、人体やペットに影響がないとはいえ、地域の住民にきちんと説明しないと不安に思われる場合もあります。そのため、地域の方々にベイトを巻く意義を説明したり、一緒にベイトを巻くイベントを実施したりと、コミュニケーションも大切にしています。
野生動物が都市に近い札幌という地域で、人間と野生動物が共存するためには、人間側にも対策が必要です。沢の水を飲まない、土を触ったら必ず手を洗う、といった自然と触れ合う際には警戒することも必要です。そして何より、キツネが人間の生活圏に近づかない適度な距離感を保つことも重要です。公園や学校など子供たちが砂遊びをする場所でキツネが出入りすると、不安を感じる方もおられるでしょう。池田さんは、キツネという動物に神秘的な魅力を感じています。昔話に出てきたり、お稲荷さんとして祀られているキツネとこれからも付き合っていくために、共存の道を探っていきたいと考えています。(奥本)
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